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キになる視点

社員のモチベーションの上げ方

掲載日:2021.11.22

いかに社員のモチベーションを上げられるのか

 ー 1on1ミーティングで社員の根源的な「やる気」アップへ 

 

 

■調査結果にみる日本の従業員の「モチベーションの低さ」

 

日本には“熱意あふれる社員”の割合が6%しかない

 

日本経済新聞の記事(2017年5月26日付)で報道され、一時話題になりました。

さらに、米国ギャラップ社による世界規模の調査であったため、

 

139カ国中132位で、日本は最下位クラス」

 

といった、センセーショナルな順位にも、多くの日本人が驚いたわけです。

また、同記事では、

「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員の割合:24%」

やる気のない社員の割合:70%」

にも達したとされました。[参考サイト1]

 

もう少し詳しく調査結果をみます。

社員を「A:熱意がある」「B:熱意がない」「C:会社に反感を持っている」の3種類に分類すると次のようになります。

●日本  A:6%  B:71%  C:23%

●中国  A:6%  B:75%  C:19%

●韓国  A:7%  B:67%  C:26%

●台湾  A:7%  B:70%  C:23%

 

東アジア諸国は概して低い値です。文化や質問への回答の仕方の違いといった面もあるように思います。

しかし、日本が世界でも最下位のクラス(139カ国中132位)であったという結果は真摯に受け止めなければいけないでしょう。

ちなみにアメリカでは、先の割合は、A:33%、B:51%、C:16%です。[参考サイト2]

 

似たような結果を示しているデータとして、タワーズワトソンが調べたもので、社に貢献したい」という意欲の高い日本人の割合が全社員のうち3%、という結果があります。

同調査では、「私は、会社の成功のために、求められる以上の仕事をしたいと思う」という質問に対しても、日本の従業員でそう答えたのは49%で、これはその調査における世界平均の78%を大きく下回った、というものです。[参考サイト3]

他の調査結果と見比べると、49%は意外に高い数値なのではないか、と思ってしまうほどです。

 このような一連の調査結果から浮かび上がってくるものは、現時点において日本の会社に勤める従業員の多くは、会社のために働きたいとは思っていない、つまり「やる気がない」「モチベーションが低い」ということです。

 

 

■日本の従業員のモチベーションが低い理由

 

 なぜ、日本の従業員はモチベーションが低いのか?

 

その理由には、いくつか考えられると思いますが、ここでは「ワーク・エンゲージメント」という概念を使って説明をします。

 「ワーク・エンゲージメント」は、従業員エンゲージメントや社員エンゲージメントとも言われますが、企業や団体等で働くワーカーが、どれだけその組織に対して愛着や信頼感、あるいは誇りをもっているか、ということを指します。

 もともと「エンゲージメント」という言葉は直訳すれば「契約、約束」といった意味ですが、そこから派生して「深い良い関係」を示す言葉として使われます。エンゲージリングは、婚約指輪のことですが、これは良い関係になった2人が約束を結ぶための証しですね。

 

さて、今の時代、どれだけの従業員が自社に対して愛着をもっているでしょうか? 

 

それは先に示したデータの結果からも明らかです。実際のところ、愛着や信頼感をもっていない従業員の方が多い、というのが実情です。

 それがモチベーションの低さにつながっている、と考えたのですが、なぜそのような状況になっているかといえば、一つには今の社会状況があると言えます。

 かつて高度成長時代と言われた日本では、組織(企業や団体等)が発展して大きく成長していくことが、そのまま組織で働く個人の豊かさに直結していました。一人ひとりの従業員は、個人として豊かになるという目標と、組織が成長していくという目標をほぼ一つのものとして、一気通貫で捉えることができました。自分の目標イコール会社の目標、と素直に、直線的に結び付けて考えることができた、というわけです。

 それが今はどうでしょう。高度成長が終わり低成長になってからは、所属している組織がどんどん成長するということは、かつてのようには起きません。

 

一方、個人としての目標は多様化しました。かつての日本人が思い描いていた豊かさは、その多くがすでに達成されたとも言えます。豊かさは物質的や金銭的に測られるものではなくなりました。

 例えば、所属する企業が、何年後には売上げを何倍にする、といった目標を掲げて社員を叱咤激励したとしても、社員はそれに対して素直に呼応する時代ではもうなくなっているということです。

もちろん今でも金銭的な豊かさを求める層は一定数いるでしょう。

しかし、それと所属する企業の売上倍増計画とを一気通貫で思い描ける社員はどれだけいるでしょうか。時代は完全に変化してしまっているわけです。

 

 

■会社と個人の目標が重なり合ってモチベーションは上がる

 

こういう時代背景のなかで、組織が従業員との間に「ワーク・エンゲージメント」を取ろうとすることは至難の業になってきている、と言えます。

 

では、従業員が自社に対して、どのようにしたら愛着や誇りをもってくれるようになるでしょうか?

 

愛着もわかないような企業であると、いやいや仕事をしている、というモチベーションの低い社員ばかりの企業になってしまい、生産性を上げるといったことも単なるお題目になってしまうでしょう。

社員が自ら、進んで積極的・自主的に仕事をするようになる、つまりモチベーション・やる気を高めて仕事に取り組んでもらえるようになるためには、次のようになる事が、効果的な解決策である、と考えています。

 

それは、会社の目標イコール社員の目標、と捉えられるようにすることです。

 

では、どのようにしたらそのようになるのでしょうか?

中小企業を例にとって考えてみます。まずは、会社としての目標とは何なのか、が社員一人ひとりに伝わる必要があるでしょう。この時の目標ですが、それは単に「来年は売上を現状の〇%アップにする」といった目標だけではだめです。その背後にあるその企業の理念や進むべき方向、さらに言えば自社は何のために存在しているのか、といった存在理由についても社員と共有化されていることが必要だと思われます。

 

企業理念が社員に浸透しており、それを社員が誇りに思うような状態が理想的です。

その理念の先に、今年の目標というものも出てくるからです。

 

次に考えなければいけないのは、社員一人ひとりの目標です。

今の時代、個々の社員はいろいろな希望や夢を持っています。多様化の時代です。社員一人ひとりの目標もいろいろなパターンが想定されます。それは、ときに漠然としすぎていて、具体的に思い描けなくなっている人もいます。そこまで会社が口を出す必要はない、という意見もあります。しかし、会社の存続にも大きく関わる「社員のモチベーション・やる気アップ」につながります。

言葉を変えれば、企業は社員のキャリア形成を支援する必要がある、ということになります。

あえてここで「キャリア形成」という言葉を使ったのは、仕事という側面での社員の目標を支援する、という意味です。さすがに「子供は娘が3人ほしい」などの個人的な目標は、企業理念と一気通貫では結びつきかねるからです。

仮に企業理念が「お客様が健康寿命を延ばせるように一人ひとりをサポートします」というものであったとします。

 そこから導かれた企業の目標 【例えば「Aという商品を年商〇億円までもっていく」等】と、社員個人としての目標【例えば「お客様に喜んでもらうことが自分の励みになる。そのための対顧客スキルを高めたい」等】 が、矛盾なく重なり合っている必要がある、ということです。

  

■1on1ミーティングで社員目線でのキャリア形成を考える

 

 特に何もしないで、会社と個人の目標が重なり合い、そこから社員のモチベーションが上がる、ということは、普通の会社ではまずありえません。

そのような状況を意識してつくり出していくことが、社長やマネージャーの役割となります。

 

では具体的にどのようなことを行えばいいのでしょうか?

 最近「1on1(ワンオンワン)ミーティング」という言葉をよく聞くようになりました。上司が部下と1対1で面談をするということですが、よく行われているような業務面談とは違います。

業務面談は、部下の業績(仕事の成果)について話をし、それが部下の評価にもつながっていくものです。

1on1ミーティングとの差異は何か?と言えば、その意図は、『その社員のキャリア形成をサポートすることにある』という点です。

つまり、業務面談が、部下が「会社のために」業績を上げることを意図して行われる会社目線の面談だとすれば、1on1ミーティングは、その社員の目線で行う「社員のための」面談だと言えます。

 

 その社員が、この会社のなかで、どのようなキャリア形成をしていけるのか、について上司と部下で面談をする。そこでは「会社目線」の話は差し当たっては脇に置いておいて、です。「社員目線」でということは、まずはその社員が自身としてどのようなドリームを持っており、それが今の環境のなかでどう具現化できる可能性があるのか、ということを、会社の目標はひとまず後回しにして、まずは語ってもらえるようにするのです。

 そして、その社員のドリーム(仕事面で自分はこうなっていきたい、という思い)をどうしたら具体的に実現していけるかを2人で真剣に考える場が、この1on1ミーティングであると言えます。

 私は、キャリアコンサルタントとして、この1on1ミーティングを行うことにした企業から頼まれて、上司に1on1ミーティングのやり方をご指導させていただきますが、そこでは「傾聴」(相手の話をよく聴く)について、まずはお伝えします。

すぐに話を遮って自分の意見を述べたり、「こうしたらいい」といった指示をするのはやめてください、とお伝えします。社員と同じ目線に立てるようになり、その社員が感じたり考えたりするように上司も感じ考えるようになったならば(これを「共感」と呼ぶ)、そこから出てくる一緒に悩みぬいたうえでの助言はOKです、とお話しています。

 なかなか難しい、と言われる上司の方も多いです。

最近では「クロス1on1ミーティング」といって、隣の部署の上司が面談をすることもあるようです。さらに詳しい内容にご関心を持たれた方は、国家資格をもつ「キャリアコンサルタント」にご相談を

されてみてはいかがでしょうか。

 上記のような個人の目標(キャリア形成の目標)が見えてきた時点で、その個人の目標を具現化していく環境として会社がある、という観点で、会社の話が出てきます。

どのようにしたら、会社の環境を活用して、個としての目標がクリアできるようになるか?

そうしたことを一緒に考えるというフェーズに移るわけです。その時点では、企業と個人とのエンゲージメントが取れていくようになるという道筋となります。

 社員一人ひとりの根源的な「やる気」=モチベーションの向上につながっていくわけです。

 

 

(参考サイト)

1.日本経済新聞「『熱意ある社員』6%のみ日本132位、米ギャラップ調査」2017年5月26日

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/

2.「State of the Global Workplace」(ギャラップ社、2017年)

https://www.gallup.com/workplace/238079/state-global-workplace-2017.aspx

3.タワーズワトソン「グローバル・ワークフォース・スタディ2012」

https://www.adeccogroup.jp/power-of-work/vistas/adeccos_eye/32

 

 

この記事を書いた人

柴田 郁夫 しばた いくお

株式会社志木サテライトオフィス・ビジネスセンター 代表取締役社長
一般社団法人地域連携プラットフォーム 代表理事

1956 年東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学院理工学研究科修了(修士)。
1988 年より、日本のテレワーク発祥の地と言われる志木サテライトオフィスの運営に携わる。
現在、株式会社では、コワーキングスペース、公的職業訓練、民間学童保育等を展開。
一般社団法人では、国家資格キャリアコンサルタント養成講習や更新講習を主催している。

担当者の主な著書