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キになる視点

これからの時代を生き抜くために必要な「共創」という働き方

掲載日:2025.07.25

 

 皆さんは「共創」という言葉を耳にしたことはありますか?

 

 知っている人にとっては、すでに過去から使い古された言葉であり、知らない人にとっては、何のことやらよくわからない、この言葉。文字通り「ともにつくる」ことを指し、所属や役職、肩書き、担当業務などの垣根を超えて協力しあうことで、個人やチーム単独ではできないモノゴトをつくることを意味します。わかりやすい言葉で言えば、「三人寄れば文殊の知恵」のこと。この単純明快な言葉が、いま社会で重要視されるようになってきています。

 

 政府や自治体、大学や企業の発表資料を閲覧すると、未来に向けた方針資料には必ずといってよいほど 「共創」の文字が記載されています。社会課題の複雑化への対応、オープンイノベーションの推進、地域活性化への期待、デジタル化の進展など、現代社会におけるさまざまな背景に立ち向かううえで重要なキーワードとなっています。

 

 2004 年にミシガン大学の教授らが著書の中で「Co-creation」の概念を提唱し、広まったとされており、 その後デザインやものづくり、IT、働き方の研究分野にて人々の創造性(クリエイティビティ)を高める手段として研究対象とされてきた歴史があります。いまでは将来を背負って立つリーダーたちが取り組むべきこと、そして身につけるべきチカラとして注目されているのです。

 

 そんな重要な考え方であるにもかかわらず、ビジネス、まち、教育など、さまざまな現場で

 

「共創といっても、具体的によくわからない」

「共創しようとしても、なかなかうまくいかない」

「共創の意義や価値が理解されない」

 

などの言葉を聞くことが少なくありません。共創という言葉の意味があやふやなまま利用されているケースが多いからであり、共創の考え方と活動の本質を理解している人が、じつはあまり多くいないからではないでしょうか。

 

共創の本質は、合理的思考 と 属人的思考 を繰り返すことです。

「テクノロジーを駆使し、効率的・迅速にコトを進める」合理性と「個人の思いや願いから、人の評価や共感をあつめ、コトを起こす」属人性をそれぞれ大事にし、その2つの視点を振り子のように行き来しながら追求し続けることで共創力が高まり、価値創造が繰り返され、さらなる向上や成長の積み重ねにつながっていく。それが共創の適切なプロセスなのです。

 

 コロナ禍を越えて、ICTツールを使えば距離とは無関係にコミュニケーションを取れ、会社に行かずとも働くことができるようになった時代です。

「人がリアルに集まること」の意義を見直すべきタイミングにきているのかもしれません。

また、人口減少の影響がより色濃く出てくる今後の日本社会において

 

「自分たちらしさや自分たちにとっての価値や幸せに向けて働く」

「仕事や生活を支援してくれる複数のコミュニティとつながる」

「自分の関わる地域やまちが課題を解決し豊かになる」

 

など、私たちにとってのウェルビーイングな生活の実現を、本格的に考えるにはとてもよいタイミングだといえます。

 

  共創は、誰でも取り組むことができる。

  共創は、皆で取り組む価値のある働き方だ。

 

このような理解が進み、浸透し、波及してゆく時代が、もうすでに到来しているのではないでしょうか。

 

 

この記事を書いた人

庵原 悠 いはら ゆう

株式会社オカムラ
働き方コンサルティング事業部 ワークデザインストラテジー部
デザインストラテジスト

慶應義塾大学SFC 卒業後、岡村製作所 ( 現オカムラ ) 入社。オフィス研究所、フューチャーワークスタイル戦略部などを経て現職。既存のデザイン領域を越えた空間設計や製品開発、企業組織の働き方コンサルティングなどの従事と並行し、全国の大学・自治体・企業等での講義、講演を通じて、共創の啓発活動にも尽力している。
未来の働き方としての「共創」に可能性を感じ、2012年には企業内コワーキングスペース・ Future Work Studio “Sew”を立ち上げ、企画・設計・運営に参画。慶應義塾大学SFC研究所所員としてファブラボ研究と並行し、世界ファブラボ会議や横浜ファブ・シティー・コンソーシアム、文部科学省・革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)などに参加。国外の共創の場の調査研究を続けながら、10年以上にわたる企業や学校、自治体での共創プロジェクトや共創の場づくりのほか、現在も文部科学省 COI-NEXT(2023−)「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」などに参画している。
●著書 『イノベーションの未来予想図』、『すばらしい未来に向けた環境予想』(ともに共著、創成社)  

●受賞  グッドデザイン賞、iF DESIGN AWARD など多数

担当者の主な著書