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キになる視点

子どもの健全な成長のための 外あそび推進について

掲載日:2023.03.22

本来の子どもたちの元気なあそびは、太陽光線を受けながら、外で泥んこになってするものですが、室内での活動が多いと、子どもたちは、ますます外に出なくなります。自然物との接触も、本当に少なくなってきていますし、しかも、そういう外あそびを好まなくなっている子どもたちも目立ってきました。

 今日、都市化が進むにつれ、子どもたちの活動できる空間が縮小されるとともに、からだ全体を十分に動かす機会が非常に少なくなってきました。咄嗟に手をつくという防御動作がなかなかとれず、顔面に直接ケガをする子どもたちが増えてきました。日頃、十分に運動している子どもたちであれば、うまく手をついて、ケガをしないように転ぶことができます。ところが、運動不足で反射神経が鈍っていると、手のつき方も不自然になり、まるで発作でも起きたかのようにバターッと倒れ、骨を折りかねません。また、ボールがゆっくり飛んできても、手でよけたり、からだごと逃げたりできないので、ボールが顔にまともに当たってしまいます。このように、日頃、運動をしていない子どもたちは、自分にふりかかってくる危険がわからず、危険を防ぐにはどうすればよいかをからだ自体が経験していないのです。

 子どもというものは、外あそびの実践を通してからだをつくり、社会性や知能を発達させていきます。からだのもつ抵抗力が弱く、病気にかかりやすい子どもたちに対しては、健康についての十分な配慮が欠かせないことは言うまでもありませんが、そうかといって、「風邪をひいては困るから外出させない」「紫外線にあたるから、外で遊ばせない」というように、まわりが大事を取り過ぎて、子どもたちを外あそびや運動から遠ざけてしまうと、結果的に子どもたちを運動不足にし、健康上、マイナスの状態を生じてしまいます。

 この時期に、外あそびを敬遠すれば、食欲もわかず、成長に必要な栄養摂取も不十分となり、あわせて、全身の筋肉や骨の発育・発達も遅れ、平衡感覚も育成されにくくなります。とくに、背筋力の低下や視力の低下が目立つ現代では、運動経験の有無が子どもたちの健康に大きな影響を与えることになります。それにもかかわらず、現実は、ますますからだを動かさない方向に進んでいるといえます。

 外あそびを通して得た感動体験は、子どもの内面の成長につながり、自ら考え、自ら学ぶ自立的な子どもを育んでいきます。便利な現代生活の中で、育ちの旺盛な幼児・児童期に、外からだを使う機会がなくなると、子どもたちは十分な発達を遂げることができません。今こそ、みんなが協力し合って、このネガティブな状況を変えることが必要です。

 まず、国の指導者層を含め、すべての大人たちが、子どもの外あそびを大切にしようとする共通認識をもつことが重要です。外あそび体験からの感動や安らぎを得た経験をもつ子どもたちこそ、自身の成長だけでなく、日本のすばらしさや大切さを感じる大人になっていくことができるのです。

 子どもは、国の宝であり、未来です。今こそ、このタイミングを逃さず、外あそび推進のために動くときであり、外あそびの重要性や意義・役割、効果について、基本的な考え方を、みんなで共有していきたいと思います。

 

この記事を書いた人

前橋 明 まえはし あきら

現 職 早稲田大学 人間科学学術院 教授/医学博士
学 位 
1978 年 米国ミズーリー大学大学院:修士(教育学)、1996 年 岡山大学医学部:博士(医学)
教育実績(経歴)
倉敷市立短期大学教授、米国ミズーリー大学客員研究員、米国バーモント大学客員教授、米国ノーウィッジ大学客員教授、台湾国立体育大学客座教授を経て、現職
活動実績(社会的活動および所属、学会などの所属)
1)社会的活動
一般社団法人 国際幼児体育学会会長、一般社団法人国際ウエイトコントロール学会会長、日本レジャー・レクリエーション学会会長、一般社団法人 国際幼児健康デザイン研究所顧問、一般社団法人 日中児童健康Lab 顧問、インターナショナルすこやかキッズ支援ネットワーク代表、子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会代表、日本学術振興会科学研究費委員会専門委員(2009.12 ~ 2017.11)、日本幼少児健康教育学会理事長(1982.10 ~ 2014.3)、日本幼児体育学会理事長・会長(2005.8 ~ 2022.3)
2)受 賞
1992 年 米国ミズーリー州カンサスシティー名誉市民賞受賞
1998 年 日本保育学会研究奨励賞受賞
2002 年 日本幼少児健康教育学会功労賞受賞
2008 年 日本幼少児健康教育学会優秀論文賞受賞
2008 年 日本保育園保健学会保育保健賞受賞
2016 年 第10 回キッズデザイン賞受賞
2017 年 (中華民国106 年)新北市政府感謝状受賞
3)主な著書
●『健康福祉科学からの児童福祉論』(チャイルド本社)
●『運動あそび指導百科』(ひかりのくに)
●『生活リズム向上大作戦』(大学教育出版)
●『幼児体育─ 理論と実践─ 』(日本幼児体育学会)
●『輝く子どもの未来づくり』(明研図書)
●『最新健康科学概論』『健康福祉学概論』(朝倉書店)
●『低年齢児~幼児とのふれあいあそび─ 手あそび&親子体操─ 』(ひかりのくに)
●『子どもにもママにも優しいふれあい体操』(かんき出版)
●『公園遊具で子どもの体力がグングンのびる』
●『0・1・2 さいのすこやかねんねのふわふわえほん』(講談社)
●『3 歳からの今どき「外あそび」育児』(主婦の友社)
●『保育の運動あそび450』新星出版社 など

担当者の主な著書