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掲載日:2023.07.26
前回、高等学校の非卒業者の問題を「中途退学」という枠組みの中だけで理解することは難しいということを述べた。今回は、筆者が行った調査を基に、入学した学校において卒業に至らなかった高校生の特徴について報告する。
調査は以下のとおり、2回にわたって実施した。
調査1)
全日制普通科の公立高等学校1校において、ホームルーム担任へのインタビューを行い、卒業予定年度に卒業に至っていなかった生徒の特徴について調査を行った。その結果、退学者と転学者は共通して、学業面、行動面における困難を複合して有していたことが明らかになった。また、転学はいずれも、進級に必要な単位を修得できなかった結果として選択されたもので、転学先は、通信制課程または単位制であった。
調査2)
地方の高等学校4校において、高校生を対象とした質問紙調査とホームルーム担任を対象とした調査を組み合わせ、退学群と転学群の特徴の比較を行った。分析の結果、退学者と転学者は学業面、行動面、精神的健康、自己効力感において、ほぼ共通する特徴を有していたことが示唆された。
ここで、退学者・転学者に休学者を加えた群を「ドロップアウト群」とし、「卒業・継続群」と特徴の比較を行った。分析の結果、「ドロップアウト群」は、「卒業・継続群」と比較したところ、学業面、行動面、精神的健康の面で困難を有し、自己効力感が低い傾向が認められた。
続いて、上記の「ドロップアウト群」について、精神的健康の得点を指標とし、次の4つノタイプ分けを行った。
「注意の問題・衝動性傾向」
「いじめの問題傾向」
「体調不良」
「反社会傾向」
それぞれの群の特徴を「卒業・継続群」と比較したところ、タイプごとに困難の状況が異なっていることが見いだされた。とりわけ、「いじめの問題傾向」を示す生徒は、何重もの困難を有する可能性があることが示唆された。また、4人に1人が「いじめの問題傾向」を有するタイプであった。
「いじめの問題傾向」を有するタイプは、「卒業・継続群」と比較したところ、次の特徴があった。
特徴1)
「不登校・学校嫌い傾向」「引きこもり・非社交性傾向」「いじめの問題傾向」「体調不良」「思いつめ傾向」「注意の問題・衝動性傾向」において得点が高い。
特徴2)
「自尊感情」「対人関係に関わる自己効力感」「社会的役割に関わる自己効力感」「セルフコントロールに関わる自己効力感」「学業に関わる自己効力感」の得点が低い。
いじめは、被害者の心身や人生に深刻な影響を及ぼす。適切な支援や介入がなければ、社会への適応に困難を抱え続けていく可能性がある。ドロップアウトの結果もたらされる人生の不利益は、いじめのもたらす深刻な影響の1つと言える。
●2つの調査が示唆すること
文部科学省の中途退学に関する調査は、その理由を、次の中から教師が1つ選択する方式である。
①学業不振
②学校生活・学業不適応
③進路変更
④病気・けが・死亡
⑤経済的理由
⑥家庭の事情
⑦問題行動等
⑧その他
このことについて先行研究は、高等学校の退学の原因は単一なものでなく、複数の原因が複合的に絡み合っていること、また、担当教師が選択肢の中から理由を1つ選ぶという現行の調査方式には限界があることを指摘している。
前述の2つの調査結果は、その指摘を裏づけるものと言える。
また、日本において、退学者のみでなく転学者に関する調査が必要であること、いじめや対人関係上の理由への視点が必要であることが示唆された。
次回は、日本におけるドロップアウトの現状把握の課題について述べる。