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掲載日:2023.09.05
米国の先行研究は、ドロップアウトの問題には、多くのレバレッジ・ポイント(てこのように、小さな力で大きく動かすポイント)が存在することを伝えている。
たとえば、50年以上前から、幼児期における予防の意義が着目されており、1962年ミシガン州において、リスクが高い子どもを対象とした就学前教育プログラム「Perry Preschool Project」が始まった。広く知られるこのプログラムは、学校への適応が難しいと判断された3~4歳の子ども(低所得層のアフリカ系アメリカ人でIQが75~85の子ども)を対象として、訓練された教員による質の高い就学前教育を提供するものであった。プログラムは、少人数クラスの授業、毎週の家庭訪問、親を対象とする毎月の少人数グループミーティングが組み合わされたものである。このプログラムを受けた子どもには、高等学校卒業率の高さが認められるとともに、彼らが27歳時点においてプログラムの費用1ドルあたり7.16ドルの公財政支出が削減されること、さらには40歳までの就業率と平均収入の高さ、犯罪率の低さ等が示されている。
また、米国のサンディエゴ市では、市のコミュニティー・カレッジや街の中に点在する公園で、誰もが無料で参加できる親学習のプログラムが定期的に開かれている。現地では、プログラムを担当する教員が「幼児期にかける1ドルは、後の7ドルに相当する。そこにお金をかけることの意義を、市民はよくわかっている」と語っていた。上記の研究の成果が市民レベルで理解され、地域ぐるみの予防に生かされていた。
米国ではまた、1965年から国の事業として、低所得世帯を対象とする就学前のプログラム「Head Start Program」が実施され、高等学校の卒業率の向上を含む効果が示されてきた。このプログラムは、教育的支援と親への支援、健康・栄養サービスが組み合わされたもので、子どもの人数対スタッフの人数が手厚いことは、前述のPerry Preschool Project と同様である。
テネシー州のクラス規模に関する研究「Star Project」は、幼稚園から小学校3年生の4年間、少人数のクラス(通常22~26人であるのに対して13~17人)で学習した子どもは、高等学校を卒業する可能性が有意に高く、とりわけ、クラスの人数の影響は、低所得世帯の子どもにおいて顕著であったことが報告されている。
前回連載③で、ドロップアウトに至った生徒は、学業面の困難や家族関係の悩みを有している傾向が見出されたことを説明した。子どもたちは高等学校に入学する前から困難の中にあった可能性がある。海外のエビデンスを踏まえ、幼児期からの予防と少人数クラスを実現するために政治予算を集中することの意義が、日本において議論される必要がある。